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南伊豆の光と風に癒されて ――
綱 川 礼 子 (詩人)
前日の雨に洗われた南伊豆の山々は、目の中まで縁に染まりそうな初夏の色でした。ホトトギスの声が響きわたり、木漏れ日に手をかざして見上げると、どこまでも澄んだ空に、銀色の旅客機がみるみる小さくなって、音もなく吸い込まれて行きました。
作家・山本周五郎ゆかりの名旅館『蓮台寺荘』の庭園と溢れる温泉、そして品格あるもてなしに癒されて、一夜を過ごした翌日は、郷土割烹「おか田」のご主人の案内で伊豆下田の歴史旅行へ。
幕末、法外な年俸と引き換えにアメリカ総領事タウンゼント・ハリスの侍妾として召し出された芸妓お吉の、悲しい生涯の舞台となった安直楼やお吉ヶ淵、入水後葬られた宝福寺では残された写真から、現代に通じる美女ともいえる、お吉のおもかげに触れることができました。
下田開港時,米国人の休息所となった了仙寺は、いたるところアメリカジャスミンの甘い香りに満ち、米国軍人の墓所である玉泉寺では、墓石にひらがなで刻まれた故人の名前を見つけました。祖国に残してきた家族や愛する人を想いながら、彼はどのような最期を遂げたのでしょう。彼の魂は無事に故郷へ帰れたのでしょうか。
〈あれきさんだー でゆーな〉
その名を撫でるようにそっと指でなぞってみました。わずかに風化した墓石が、砂となってさらりと落ちてゆきました。
昼食は「伊豆の味おか田」でいただきました。地上がりの金目鯛の煮付け、合鴨のすいとんなどの献立『ひいな膳』には、懐かしさと安らぎがありました。
黒船来航の後、徳川幕府が鎖国を解き、近代日本の夜明けを迎えたのはそう遠い昔の出来事ではない、そして、そこにはいろいろな人生のドラマが展開していたのだと改めて考えさせられました。
傾きかけた太陽が小島に影を宿す頃、少しずつ海岸線から離れていく列車の柔らかい揺れに躰をあずけながら、帰ったらまた明日から仕事を頑張ろうと、栃木までの帰路につきました。
一泊二日の短い旅でしたが、伊豆は風も日差しも本当に優しく、心の中まで元気にしてくれました。
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